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【初心者必見】『映画はやくざなり』笠原和夫のシナリオ術をわかりやすく解説

シナリオ

「笑わせるにしろハラハラさせるにしろ、その中にひとつ「切実なもの」が貫通してなければ、観ている側の腹は一杯にならない。二度目になると莫迦にしだして、三度目はもう観に行かない」

『映画はやくざなり』「秘伝 シナリオ骨法十箇条」より

みなさんこんにちは、ムービー3分クッキングの時間です。

今回は脚本家・笠原和夫さんのシナリオ術をみなさんに紹介します。参考にした本はこちら、『映画はやくざなり(笠原和夫著)』。

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この中の「秘伝 シナリオ骨法十箇条」という章から、私が大切だと思う内容をわかりやすく解説していきます。

笠原和夫とは

昭和2(1927)年東京生まれ。日本大学英文科中退。海軍特別幹部練習生から様々な職を経て東映宣伝部に入る。昭和33年からシナリオ執筆を始め、東映任侠映画路線の花形ライターとなる。『仁義なき戦い』四部作、『日本侠客伝』シリーズ、『博奕打ち 総長賭博』『二百三高地』『大日本帝国』などを執筆。昭和56年と58年に日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。著書に『「妖しの民」と生まれきて』『破滅の美学』『昭和の劇』(共著)など。平成14年12月12日逝去。

脚本を書き始める前に

脚本家の仕事のうちで実際に原稿を書き始めるのは、実は最終段階にすぎません。

脚本に取り掛かる前にすることは、大まかに次のような行程があります。

脚本を書く前のステップ
  1. コンセプトの検討
  2. テーマの設定
  3. ハンティング(取材と情報蒐集)
  4. キャラクターの創造
  5. ストラクチャー(人物関係表)
  6. コンストラクション(事件の配列)
  7. プロット作り

今回はこの中で著者が最も大事だとする1、2、3に私が特に重要だと思った7を加えて解説していきます。

コンセプトの検討

コンセプトとは、映像作品を取り巻く様々な状況や時代の流れを踏まえながら、どのように作品を成功に導くか。このプランを設定するのが脚本の最初の作業です。

みなさんは目新しいストーリー展開があれば映画やドラマはヒットすると思っていないでしょうか? しかし、それは違うのです。

ヒットする作品とは、このコンセプトが効果を発揮した場合であって、決して目新しいストーリーのおかげではありません。逆に言えば、コンセプトが不十分で映画の基点がしっかりしていないと、脚本がどんなに苦労したところで、人の目を引く作品にはならないのです。

テーマの設定

コンセプトが決まったら、それに沿ってどういうメッセージを観客に伝えたいのか、自分の「観念=テーマ」を固めます。

注意することは、設定したテーマを登場人物のセリフやモノローグ、ナレーションで伝えてはいけないということです。いい作品とは、きちんとした構成が組み立てられたドラマの中で、テーマが観客に以心伝心されていくのです。

テーマはわかりやすく伝えるために、単純で強靭なものにするよう心がけましょう。

ハンティング(取材と情報蒐集)

コンセプトが決まりテーマの方向性も見えたら、次は脚本を書くにあたって可能な限りのデータを揃えます。この作業は、料理人が食材を仕込みに市場を駆け回る努力と同じです。仕込みのネタが悪かったり、新鮮なものでなければいい料理は出せず、店の評判は落ちるだけです。

ハンティングが成功するかどうかで、作品の運命は決定されるといってもいいでしょう。

注意してほしいことは、取材は大いにするべきですが、情報を集めて満足してはいけないということです。重要なのは、その情報をいかに取捨選択するかなのです。著者はこの作業が脚本を仕上げる行程で一番時間がかかると言います。集めた資料を吟味し、資料のすき間を煮詰めてデフォルメしていくことで、脚本の方向性が定まっていきます。

プロット作り

プロットはドラマ全体を把握するために必要不可欠なものです。ベテランになるとプロット前の段階で自然と頭にプロットが出来上がっているので、プロットを作らない脚本家もいますが、新人のみなさんは必ずプロットを作ってください。プロットはストーリーのロジックを読み手に正確に伝えるためのものなので、余計な修飾はいりません。

著者は約2000字を長さの目安としています。これに収まらない場合は、作者がストーリーを把握していないか、ストーリーに無駄な部分があるということで、逆に2000字に達しない場合はドラマの組み方が浅く、話が足りないということがわかります。

プロットが書き上がったら、なるべく多くの人に読んでもらいましょう。そして彼らの意見を大事にしましょう。自分の作品に対して客観的な視点を持つことは、作品の手直しだけでなく、次回作を書くうえでも必ず役に立ちます。

シナリオ骨法十箇条

ここまできてようやく脚本を書く段階です。まず十箇条はこんな感じです。

笠原和夫のシナリオ骨法十箇条
  1. コロガリ(サスペンス)
  2. カセ(宿命)
  3. オタカラ(守るべき/獲得すべきもの)
  4. カタキ(敵役)
  5. サンボウ(正念場)
  6. ヤブレ(失敗)
  7. オリン(涙)
  8. ヤマ(見せ場)
  9. オチ(締め)
  10. オダイモク(テーマ)

この中から私が重要だと思うものを6つに絞って紹介します。が、実はその前に0箇条があるのです。

それは「クルイ」です。

クルイ

プロット作りまでの作業は冷静な頭でいなければいけません。しかし、ここからは冷静なままでは一行も書けやしないと著者は言います。そのために程よく狂うこと。

ブラブラしたり、酒を嗜んだり……そうして程よく狂ってきたと思ったら一気に、筆の進むまま好きなように書いてください。書いていくうちに頭の中のボロが見えてきます。そしたら一度休んで筆を置きましょう。

時間を置いて自分の原稿を見直します。そして思います。「つ、つまらん……!」原稿をゴミ箱へ捨て、一から書き始めます。無駄だと思う必要はありません。一度目より二度目の方が必ず面白いものになっているのです。

それを繰り返すうちに「ドラマ熱」が湧き出てきます。登場人物が身近に感じ、セリフが次々と出てきます。しかしこの「ドラマ熱」はドラマに取り憑かれた状態であり、危険です。熱を冷ますにはエンドマークまで書きあげるしかありません。途中で投げ出すと長期のスランプに陥るか、二度と書けなくなる可能性もあります。何もないところからドラマを生み出すということは、それほど恐ろしい作業なのです。

コロガリ

と脅しはこのくらいにして(笑)、コロガリとはサスペンスのこと。サスペンスで重要なことは2つあります。ひとつは何についての話かを端的に示唆することです。ミステリーなら最初に事件が起こりますよね。それは「これはこの事件を解決するドラマですよ」ということを示しているわけです。これがうまく行かず、ご都合主義になったり本筋とは違う話に深入りすることを「コロガリが悪い」と言います。

例えば『愛の不時着』は、序盤に北朝鮮に不時着したセリとジョンヒョクと出会いが描かれます。これはふたりのラブストーリーであるということを視聴者に示しているのです。

2つめはファーストシーンの印象づけです。ストーリーの始りだけでなく人物の登場シーンについても、最初にどうやって印象づけるかはその後の「コロガリ」を観客に納得させるための重要なファクターになります。

カセ

カセとは主人公に定められた運命や宿命のこと。コロガリはアクティブな面を強調するのに対し、カセはマイナスに作用します。

『愛の不時着』では韓国と北朝鮮という国がカセになっています。

カセによって起こる波乱をアヤと呼びます。アヤが効果的に効いたドラマは文句なしに面白く、結局のところドラマの楽しさはアヤにあるといっても過言ではありません。しかし、アヤを生むのは適切なカセがあってこそなのです。

オタカラ

オタカラとは、主人公にとって何ものにも代えがたく守るべきもの(または獲得すべきもの)を指し、葛藤の具体的な核となります。

例えるなら、サッカーのサッカーボールみたいなものです。敵対するチーム同士がサッカーボールを奪い合い、相手のゴールに入れる。観客はボールの行方を追いながら、ハラハラドキドキするのです。

カタキ

敵役、オタカラを奪おうとするものの存在です。メロドラマでは「恋敵」などがこれに当たります。ただし、ひと目見て〈悪〉だとわかるようなカタキは、時代劇ならともかく、現代劇では浮いてしまうでしょう。トラウマや劣等感など、内部から主人公の心を侵害するものでもカタキになりえるのです。

ヤマ

ヤマ場や見せ場、クライマックスのこと。メインやサブストーリーを含めた、あらゆるドラマ要素が集結し、人物たちが最大限に感情を爆発させる場面です。

観客がそれまで抑圧してきた興奮をここぞとばかりに解き放ちましょう。重要なのは、何よりも作者自身がまず感動し、我を忘れるようなボルテージの高い場面にしなくてはならないということです。

オチ

ストーリーの締めくくり、結末のこと。オチには観客の予想や期待通りに終わるものと、予想に反しながらも期待は満たして終わる場合の2パターンあります。メロドラマが前者でミステリーが後者に当てはまります。予測できて期待外れ、予測できなくて期待外れのオチはもちろんダメです。

ラストシーンは、ドラマの中で最も華やかで美しい場面を用意してあげましょう。作者はここで思い切り楽しみつつ、細心で丁寧な気遣いを持って書き上げなくてはいけません。

最後に

いかがでしたか? 今回紹介しきれなかった部分も多くありますので、興味のある方はぜひ本書を手に取ってみてください。

最後に「何だかいい作品が書けそうな気がする」と思った方や「脚本を書くって大変なことなんだなあ」と弱気になってしまった方に向けて、著者の笠原和夫さんから新人のみなさんへ向けた言葉を紹介します。

「骨法などに捉われて、自分の「切実なもの」を衰退させてはならない。わたしも駆け出しの時代は二、三日徹夜して一気に一本仕上げたものである。骨法なんて、まだ考えもしなかった、知りもしなかった。それでもちゃんと映画になったし、商売にもなった。その中で腕も磨かれたし、感性も鋭くなったと思う。若い人はガムシャラにどんどん書くことである」

『映画はやくざなり』「秘伝 シナリオ骨法十箇条」

どんなに偉大な脚本家も、右も左もわからないようなわたしたちと同じ時代があったと思うと勇気が出ます。みなさんもガムシャラに自分の作品と向き合っていきましょう。

ムービー3分クッキングでは、脚本家になるための様々な情報を発信しています。今回の他にも様々な方のシナリオ術を紹介しています。気になった方はそちらもぜひご覧ください。

それでは、最後までお付き合いいだだきありがとうございました!

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