みなさんこんにちは、ムービー3分クッキングの時間です。
このブログではプロの脚本家を目指す私が、脚本家を目指すみなさんに役立つ情報を発信しています。
今回は「脚本が観客に届くまでの道のり」というテーマでお送りします。
参考にした本はこちら。
脚本は観客のためにあるわけじゃない
突然ですがみなさんに質問です。
Q 脚本は誰のためにあると思いますか?
「そんなの観客のために決まってるだろ!」
たしかにその答えは間違いではありません。しかし観客のためにあるのは脚本ではなく作品というのが正確ではないでしょうか?
脚本は観客以前に、作品の制作陣のためにあります。
脚本は設計図であるという言葉を耳にしたことはありませんか?
脚本は小説と違い、書き終えたらすぐお客さんに届くわけではありません。監督や各部門のスタッフがそれを読んで解釈し、それぞれの持ち場で脚本に命を吹き込んで作品を完成させることで初めてお客さんの元へ届きます。
いかにいい設計図を書くか。プロの脚本家を目指すみなさんは、制作陣のための脚本づくりを意識することが大事です。
そこで今回の記事では、映画の企画から制作過程に沿ってそれに携わる人々の仕事を紹介します。
この記事を読めば、
- 脚本がどのような過程で映画となるのか
- 制作陣はどのような視点で脚本を読んでいるのか
- 映画に携わる人たちの仕事内容
がわかります。
みなさんの脚本づくりの参考になること間違いないので最後までお付き合いください。
企画
この章ではプロデューサーの仕事を中心に、映画の企画がどのように立ち上がり、どのような過程で制作へこぎつけるかを紹介します。
プロデューサーの仕事
みなさんはプロデューサーという存在を知っていますか?
名前を聞いたことがあるという方も、プロデューサーがどんな仕事をしているのかわからない人がほとんどではないでしょうか。
プロデューサーは監督や脚本家と違って仕事内容がイメージしづらい職業で、実際に仕事内容は人によって異なります。
基本的な仕事内容はこんな感じです。
- 企画の決定
- 資金集め
- 脚本家・監督探し
- トラブルの対処
- マーケティング
プロデューサーは映画全体の責任者と言える存在です。そのため企画から上映まで全ての行程に関わっています。
この章では1企画の決定、2資金集め、3脚本家・監督探しの3つを解説します。
企画の決定
プロデューサーは日頃から映画になりそうな題材を探しています。
どれだけスターを起用し多額の制作費をかけても、題材の悪い作品にお客さんは来てくれません。時流、社会的な意義を考えて映画にしたいと思える題材を見つけることができたら、企画を決定します。
映画制作は企画から完成まで、場合によっては何十年とかかることもあります。ひとつの映画を企画するには強い決意と責任感が必要になります。
資金集め
映画を作るための資金を調達し、使い道を考えるのもプロデューサーの仕事です。
資金集めの方法はスタジオ制作と自主制作によって大きく異なります。
スタジオ制作
スタジオ制作の場合、予算は全額スタジオが出します。それが可能なのは銀行の貸付やスレートファイナンスと呼ばれる投資があるためです。大企業や銀行のローンが受けられるプロデューサーなどが参入します。
自主制作
自主制作の場合は個人的な投資を受けたり、プロデューサー自身が資金を出すこともあります。スタジオが企画に興味を示さなかったことによって自主制作になることが多いです。
プロダクト・プレイスメント
スタジオ制作と自主制作のどちらも「プロダクト・プレイスメント」を行うことによって収益を得ることもできます。
プロダクト・プレイスメントとは、メルセデスの乗用車やフォードのトラックなど特定の製品を映画に登場させ、宣伝効果を狙うことを指します。
アメリカではプロダクト・プレイスメント専門の代理店も数多く存在し、億単位の金額が動いています。代表的な例はスティーブン・スピルバーグ作品の『マイノリティ・リポート』や『ターミナル』では各作品で数十社と契約し、この広告費で製作費が100億円ともいわれる両作品のかなりの部分のコストを補ったとされています。
日本でも『ゴジラシリーズ』をはじめとする東方怪獣映画や『男はつらいよ』シリーズなどから一般的になっています。
みなさんも映画を観る際に注意してみると、案外見つかるかもしれません。
脚本家・監督探し
映画化が決まったら脚本家が雇われます。脚本家はプロデューサーのアイデアをもとに脚本を書き上げていきます。書き上げた脚本は色々な人の手に渡り、改善に向けて多くの提案が返ってくるため、脚本家はその都度書き直しを求められます。
プロデューサーは脚本を読む上で「このストーリーで観客動員が見込めるか」「予算内で制作できるか」を意識します。脚本家とのやりとりが難航すれば降板させることもあります。その判断もプロデューサーが担います。
脚本と監督が同じ場合も多いですが、そうでない場合は企画が進むと監督が雇われます。監督はプロデューサーと脚本家が磨き上げたビジョンを映像化する仕事です。監督は脚本のビジョンをもとにそれを実現できる俳優やスタッフを集めます。
この段階まできたらたくさんの決定事項や交渉、約束が取り交わされ、大きなお金が動き出します。
制作
前章ではプロデューサーの仕事を中心に、企画がどのように立ち上がり、制作までこぎつけるかを解説しました。
この章では現場の責任者である監督を中心として、映画には欠かせない俳優とそれをサポートする衣装デザイナー、メイクアップ・アーティストについて解説します。
監督の仕事
監督は脚本をどのように撮ればストーリーがより生き生きと魅力的に映るかを考えます。
監督は現場に入る前に多くの準備を行います。
ブロッキングと絵コンテ
脚本には「建物の外観」といった単純なシーンがある一方で、多くの人物が複雑な動きをするシーンも存在します。
監督は脚本のト書きをもとに、俳優がどこへ、どのタイミングで動き、いつセリフを言うかなどを決めます。これをブロッキングと言います。
カーチェイスや銃撃戦など複雑な動きがあるシーンには絵コンテを描きます。絵コンテは俳優、撮影監督、照明デザイナーにプランをわかりやすく伝えるためのものです。
アルフレッド・ヒッチコックは精密な絵コンテを描き、その通りに撮影したことで知られています。『サイコ』の有名なシャワールームの場面も、どこでナイフが登場し、いつ女性が叫び、バスタブの排水溝にどんなふうに血が流れるかまで絵コンテに描かれています。
このようにビジュアル面の表現を試行錯誤し、形になったところでいよいよ撮影に臨みます。
カメラのショットを決める
セットに入るとカメラのショットを決めます。撮影技術が進歩した現代では多彩な表現ができるようになりました。監督は映画で伝えたい雰囲気に合わせて、幅広い選択肢からショットを選びます。
シーンを撮影する際、監督は人物たちがみな収まる「マスターショット」から始め、その後同じシーンを異なるカメラアングルで撮影します。ミディアムショットやツーショット、クローズアップなど、様々なパターンを撮ります。それぞれのテイクは編集によってカットして繋げられます。
撮影中のトラブル対処
撮影現場にトラブルはつきものです。
スティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』では、撮影中に機械仕掛けのサメが壊れて動かなくなりました。予算はオーバーし、撮影日数も予定していた55日間をはるかに超えて、159日間もかかりました。
俳優が演出通りに動いてくれなかったり、赤ちゃんや動物を使う撮影も苦労します。監督はその都度こういったトラブルに対処しなくてはなりません。
監督の苦労や詳しい仕事内容についてはこちらの本に詳しく載っています。
本書を紹介する記事も書いていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
俳優
俳優という仕事はセリフを覚えて本番で演じるだけのように思われがちですが、本番までに様々な準備をしています。
俳優はまず出演のオファーを受けて役が決まったら、脚本を読み込みます。
ストーリーはもちろん、特に自分が演じる役のセリフや動き、感情を意識しながら脚本を読んでいきます。時には脚本の行間を読み、脚本家の意図を汲み取りながら役の感情をイメージして膨らませていきます。
役作り
俳優は自分の役を身体に馴染ませるために、役のリサーチや身体のトレーニングなど様々なことをします。
『ハリーポッター』シリーズのシリウス・ブラック役、『バットマン』シリーズのゴードン警部補役などで知られるゲイリー・オールドマンは映画でウィンストン・チャーチルを演じる際に一年かけてチャーチルの自伝を読み、記録映像を見て、チャーチルの親族と話をしました。
その他にもオペラ歌手、方言で歌う歌手からレッスンを受け、声のトーンや抑揚、リズムを習得し、チャーチルの演説を一日中聴きました。本番ではパッドを装着して太った体格を作り、特殊メイクに毎日4時間を費やしました。
演じる
映像の演技には一発勝負の舞台とは違った苦労があります。
特に苦労するのが集中力の維持です。
シーンを撮影する際は同じシーンを様々なアングルから何度も撮ります。4つか5つのアングルから7〜8テイク撮るとしたら、同じ演技を40回することになります。その中でも全体を取るマスターショットよりもクローズアップが俳優にとって勝負です。人物の思考や内面の動きを表情の変化によって表現しなくてはいけません。
集中力を維持しながら最大限の演技を発揮する。みなさんの好きな俳優も裏ではこういった苦労をしているのです。
衣装デザイナー
衣装デザイナーが始めて脚本を読むとき、登場人物に注目して読み込み、人物像を作っていきます。
衣装デザイナーにとって暮らしの中で身につけるものは全て自己表現です。非常な殺人犯にはそれらしいルックスが、労働者風の人物にはまた違ったルックスがあります。
- 住んでる場所はどこか?
- どんな生活をしているのか?
- 収入は?
- どんなジュエリーを身に付けてる?
脚本でわからないところは監督に質問しながら絵コンテのような「人物ボード」を描き、俳優と一緒に方向性をレイアウトしていきます。
リサーチも欠かせません。時代物の場合は専門書や題材に関連する美術の本に当たったり、絵画を見て勉強します。
作品によっては何百、何千というキャストに衣装が必要になることもあり、何十人もの裁縫スタッフが24時間体制で仕事をすることも多いです。
メイクアップ・アーティスト
最近の映画制作はプリプロダクション(脚本、絵コンテなど撮影前に行う作業)の終わり頃まで俳優が決まらないことが多いです。
そのため俳優のメイクを担当するメイクアップ・アーティストは、俳優が決まらない限り準備に取り掛かることができないのが他のスタッフとは違った苦労になります。
本人にあったメイクはもちろん、作品のコンセプトによって準備する内容は異なります。傷や傷跡が必要だったり、特殊メイクが必要な場合は何ヶ月も前から準備が必要です。普通メイクの場合も少なくとも1週間の準備を要します。
メイクの所要時間は男性なら10〜30分、女性は30〜90分程度です。
意外に思うかもしれませんが、通常のメイクよりすっぴんメイクの方が時間がかかります。すっぴんメイクが大変なのは、顔のほてりやニキビなどをメイクで補正したり、隠したりするためです。そうした状態もリアルで良いのですが、撮影中にニキビが治ると編集が合わなくなってしまいます。
メイクアップの仕事は編集のつながりを常に意識します。撮影期間が長くなるほど俳優の状態も変わっていきます。メイクアップ・アーティストは俳優がいつも同じ状態に見えるようにメイクしなくてはいけないのです。
最後に
いかがでしたか?
脚本家が書いた脚本をもとにいかに多くの人が動いているのか、少しはイメージが湧いたのではないでしょうか。
みなさんの脚本作りの参考になれば嬉しいです。
本書について紹介できなかったことも多くあるので、気になった方はぜひ本書を手に取ってみてください。
他にも脚本家を目指すみなさんに役立つ記事を書いていますのでよろしければ覗いてみてください。
最後までご覧いただきありがとうございました!