みなさんこんにちは、ムービー3分クッキングの時間です。
今回は芦沢俊郎さんの書いた『シナリオを書きたい人の本』を紹介します。
本書の構成は以下のとおりです。
- 実力派シナリオライターへのインタビュー
- 一章 シナリオの基礎の基礎
- 二章 プロになるための心得
- 三章 シナリオ実作指導
今回は主に一章と二章について私なりの解釈を交えながらわかりやすく解説していきます。
シナリオの基礎の基礎
ドラマを描く
初心者の皆さんは「何を書くべきなのか」「何を書けば優れた作品として認められるか」そんな悩みを共通して抱えていると思います。この問いに著者は「妖しい情念を引きずり出し、テーマとしてとらえよう」と答えます。
妖しい情念に対する説明は本書でいくつかの角度から行われますが、どれも抽象的でわかりにくいです。それほど「妖しい情念」というものをとらえるには時間と経験が必要なのですが、今回は私なりにわかりやすく噛み砕いで説明します。
妖しい情念とは「常識では理解されないが、自分の中では説得力のある感情」のことです。
わかりやすい例として「不倫」が挙げられるでしょう。不倫は常識的に許されない行為です。好きになってはいけない相手を好きになってしまう。しかし相手を好きな気持ちは揺らぐことはなく、自分の中では筋の通った感情なのです。
構成を練る
初心者の失敗として多いのが、テーマや主人公のキャラクターがつかめるとすぐに脚本を書き始めてしまい、途中で書けなくなってしまうことです。
テーマやキャラクターはあくまで素材なのです。料理を例えにしましょう。例え食材がどれだけいいものでも、調理の仕方によってその料理は100点にも、30点にもなり得ます。食材が脚本でいうところのテーマやキャラクターなら、調理方法は何にあたるのでしょうか? それは構成です。
ハコを作る
構成を練るために便利なのがハコを作るということです。ハコとは脚本を書き始める前の構成案のことで、この作業は全てのシナリオライターがやっているわけではありません。
- 「あらかじめハコを作り、その通りに書くと作品の勢いが失われてしまう」
- 「どう展開するのか、その楽しみを自分で封じるようなものだ」
こういった考えでハコを作らないプロも存在します。
その意見は一理あります。しかし、初心者であるなら書き始める前にハコを作るべきだと著者は主張します。
その理由は、ハコを作らないプロたちは、書かないだけで「ハコ的なもの」を頭の中に練り上げているのです。初心者がプロの意見を鵜呑みにして、思いついたらすぐ書き出すのは極めて危険です。
ハコの作り方
ハコの種類は大きく大バコ、中バコ、小バコに分けられます。
大バコ
起承転結くらいの大きな要素を書きます。最初のテーマから外れていないか、場所やキャラクターの配置などを確認します。大バコでこれらがズレてしまっていると、中バコや小バコでは修正が難しくなることもあります。
中バコ
大バコをより細かく書いていきます。ここではキャラクターの感情の動きを確認しながら行います。
小バコ
中バコをさらに細かくしたものです。シーンごとに書いていく要領で、ほとんど脚本に近いです。なので「小バコを作るくらいなら脚本を書いたほうがいい」という方には必要ありません。
ハコは他人に見せるものではありませんので、十人いれば十種類のハコの作り方があります。試行錯誤を繰り返して自分なりのやり方を見つけてください。
水平思考を身につける
構成を考える上で大切なことは、ひとつの案が浮かんだとき、一度反対方向に身を置いて考えてみるということです。それを著者は水平思考と呼びます。
このシーンは本当にこれで間違い無いのか、登場人物が激怒すべきシーンで突然笑い出したらどうだろうか……、
この水平思考はほとんどがムダになってしまいますが、謙虚に自信を客観視する姿勢はときおり自分の盲点に気がつき、考えもしなかった展開を思いつくこともあるのです。
生きたセリフ
一本のシナリオが映像化されたとき、書かれたものの中で視聴者に届けられるのはセリフだけです。それくらいセリフは極めて重要なものですが、それゆえ初心者はセリフに頼ってしまいがちなのです。
初心者はコンクールの審査員など第三者に「分かってもらおう」とするあまり、登場人物にストーリーの説明や自身の悩みを喋らせてしまいます。これをいわゆる「説明セリフ」と言いますが、これではいい作品とはいえません。ドラマはあくまで画でみせるものです。
みなさんは「好き」と言葉で言われるのと、自分の欲しかったものを買ってきてくれたり、自分が辛いとき側にいてくれるのとどちらが嬉しいでしょうか。「好き」と言葉で言われるほうが嬉しいという声も聞こえてきそうですが(笑)
『愛の不時着』でセリがジョンヒョクに初めて言葉で想いを伝えたのは何話だと思いますか?
答えは8話のラストシーンです。それまで積み上げてきた互いを想う気持ち、それが8話のラスト、セリの「愛しています」によって爆発するのです。
セリフは簡潔に、ここぞという場面でというお手本です。
ト書きは自由に
ネットや本でト書きの書き方を読んだ方もいると思います。「心情や葛藤を書いてはいけない」「セリフ以外のカメラが撮るもの書く」など、ト書きは脚本家の数だけ違った書き方があります。
ではト書きの決まった約束事は存在しないのか? 著者はト書きに制約はなく、思いのこもったものであれば自由に書いていいと主張します。ドラマがしっかりと描けていれば、ト書きは我流でも受け入れてもらえる。ただし、以下2つの基本的なマナーは必要であると言います。
- 読み手が理解に苦しむようなことは書かない
- ト書きは消えてなくなるものだと理解する
それではト書きのいい例と悪い例を挙げましょう。
歩いてくる山田太郎(27)。その足取りは重く、思い詰めた表情をしている。
歩いてくる山田太郎(27)。よく似合った紺のジャケットを着ている。胸には高そうなネックレス。 太郎の足取りは重く、思い詰めた表情をしている。 今にも雨が降り出しそうな暗い空に、カラスが一羽飛んでいる。
紺のジャケットやネックレスが後の事件を解く鍵でもない限り、これらは必要ありません。
情景描写は必ずしもダメではありませんが、ト書きに凝りすぎると肝心の芝居が疎かになります。登場人物の心情の軌跡がきちんと描けていれば、ここまで語らずとも余韻は漂うものです。ト書きは完成した作品の中には決して残らないということをきちんと頭に入れておきましょう。
プロになるための心得
自意識を捨てる
自分が一生懸命書いた作品は我が子のようなもの。それを批評されたり、欠点を指摘されることは辛いことです。思わず「でも……」と反論したり言い訳をしてしまいたくなります。ですが、プロになりたいならその気持ちをグッと抑えてください。人の意見に耳を傾け、客観的に自分の作品を見つめることが大切です。
厳しく批評し合える仲間を持つ
今では SNSを通じて、同じ目標を持つ仲間と気軽に交流できるようになりました。もし、身近に自分の作品を批評してくれる人がいなければ、ぜひネットを活用して信頼できる仲間を見つけてください。
その際は心優しい人ではなく、言葉を選ばず要点をズバリと指摘してくれる人が望ましいです。
コンクールに応募しよう
有望な新人を発掘するために、各テレビ局などは様々な形のシナリオコンクールを開催しています。今でも賞を獲得してデビューすることがプロになる王道とされています。
しかし、賞を獲ることはかなり狭き門です。大きなコンクールでは応募総数が1000~2000だとすると、一次通過が100~150、二次が30~50、それが10本前後に絞られ、受賞作が選ばれます。
こんな険しい道のりを歩まなくてはデビューできないの?
そもそもコンクールってきちんと審査してもらえるの?
シナリオスクールの講師の紹介、テレビ局に売り込みに行く、ネットの繋がりで……など他に道は無いのでしょうか?
結論はまずはコンクールで賞を獲ることを目指しましょう。
コンクールの審査は一次からプロの脚本家が審査しています。多少の運不運はあるにせよ、入選圏内に入るような作品が初期段階で落とされるようなことはありません。一次も通過できないような作品を書いているうちは、紹介や売り込みもうまくいきません。そういったことは二次審査や最終審査に残る作品を書けるようになってからで遅くないのです。
コンクール突破のための対策
コンクールに応募してるけど一次審査にも通らずに悩んでいる方も多いでしょう。そんな方は思い返してみてください。
- 「この作品で評価を仰ぐのだ」という謙虚な姿勢ができていましたか?
- 数週間で書いたものを間際に応募していませんでしたか?
- 何度も読み返し、誤字や脱字に気を配っていましたか?
プロの脚本家はあなたの作品がどれだけ直しを行なって練り上げた作品なのか、すぐに分かってしまいます。
著者が提示する応募作品を完成させるまでの期間は、プロットに1ヶ月、ハコ作りで1ヶ月、シナリオの初稿~3稿で3ヶ月、最終稿から応募までで1ヶ月の約半年はかけるべきだと言います。
どれだけ工夫を凝らした作品だとしても、小さなミスが読む側の気分をしらけさせてしまうこともあり得るのです。それであなたの大事な作品が選考に漏れるのはもったいないですよね。常に「読んでもらう」という意識を持ち、単純なミスをなくすことは基本的なエチケットなのです。
最後に
今回はシナリオの基礎やコンクールについての記事でしたが、もう少し具体的なプロットの作り方などに関してはこちらの記事に詳しく書いています。
これからもみなさんがいい作品を書けるような記事を作っていきます。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!