みなさんこんにちは、ムービー3分クッキングの時間です。
脚本を書くうえで自分の思うようなシーンが書けなかったり、ト書きで苦労することはありませんか?
わたしは大まかなストーリーを決め、いざ脚本に取り掛かるとき、いつもシーンの書き方で苦戦します。初めの頃はよく脚本の先生に「このシーンは必要ない」や「ト書きがわかりづらい」と言われてばかりでした。
そこで今回はみなさんにいいシーンの書き方について解説していきたいと思います。
今回参考にした本はこちら。ジョン・バダム著『監督のリーダーシップ術 5つのミステイクと5つの戦略』です。
本書は前半に監督が犯しがちな5つのミスを紹介し、どうすればそのミスを犯さずに済むのか。後半にいい作品を撮るための5つの戦略が紹介されています。
「いやいや、わたしは監督じゃなくて脚本家になりたいんだけど」そんなツッコミが聞こえてきます。
しかし、ちょっと待ってください。
本書は監督を目指す人はもちろん、脚本家を目指す人にも参考になる本です。
監督はシナリオを作る脚本家と違って実際に映像を撮る役割なので、ひとつひとつのシーンをどう面白く撮るかに全力を注いでいます。なのでシーンについて監督の考えは大いに参考になります。
監督や演出家は、脚本家の書いたシナリオをもとに映像を作ります。プロとして活動していくなら、監督がシーンについてどう考えているのか、どういったシナリオが映像にしやすいのかを知ることは大切です。
この記事は本書の後半部分のシーンに関する記述を中心に、わたしなりに解釈しわかりやすく解説していきます。
本日紹介する内容は、
- シーンを書く前にすること2選
- シーンを構成する方法2選
- シーンを脚色する方法3選
となっています。
これを読めばいいシーンの書き方について学ぶことができますので、最後までお付き合いください。
シーンを書く前にすること
初心者がやってしまいがちな失敗として、大まかなストーリーを考えたらとにかく書き始めてしまい、気がついたら無駄なシーンばかりが続いているということがあります。
わたしもよくこの失敗をしました。特に会話などは書いていると楽しくなってきて、ストーリーと関係ないような内容をだらだらと書いてしまうんですよね。いつまでもストーリーは進まないし、楽しいのは書いている自分だけで、「この会話、本筋と何の関係があるの?」と脚本の先生からよくお叱りを受けました。
芸術性を求める純文学ならそれも許されるかもしれませんが、わたしたちが書こうとしているのは、あくまで多くの人を楽しませる脚本です。本筋のテーマに関係のないシーンは弱いシーンとされてしまいます。
実はいいシーンが書けない原因の大半はシーンを書く前の段階にあるんです。
- 作品のテーマ、主人公の葛藤を確認する。
- 箱書きをつくりシーンの意味を明確にする。
以下で詳しく見ていきましょう。
作品のテーマ、主人公の葛藤を確認する
作品を作るにあたって最も重要なのは、その作品を通して観客に何を伝えたいのかというテーマになります。作品の核となるテーマがしっかりと定まっていないと、シーン自体も冗長なものになってしまいます。
作品のテーマが定まったら、主人公の抱える葛藤も確認しましょう。葛藤もテーマに沿ったものでなくてはなりません。
観客は強い葛藤を目の当たりにすることで、主人公に感情移入します。まるで自分の物語であるかのように、続きが気になるのです。反対に葛藤が弱ければ自分とは関係のない物語だと感じて、観客の関心も弱くなってしまいます。
テーマや葛藤については他の記事で詳しく解説しています。
箱書きを作りシーンの意味を明確にする
シーンというのはただ何となく書けばいいというものではありません。今書いているシーンが作品全体に何をもたらすのか。それを考えれば自ずと何をどう書けばいいかの答えが見えてきます。
シーンと作品全体の関係をきちんと把握するために箱書きをつくることをおすすめします。
箱書きとはストーリーの構成を決める際に、物語に重要な要素を書き出し、ブロックにして並べる方法です。箱書きをつくることによって簡単に構成を組み替えられたり、修正が簡単になり情報を整理しやすくなります。ストーリーの流れが不自然じゃないか? 矛盾はないか? などを確認します。
箱書きは人によって作り方が異なりますが、「場所」「人物」「出来事」の要素が最低限書かれていれば良いです。構成が固まってきたら箱書きを細かく書き加えていき、徐々にシーンの形に近づけていきます。
箱書きを作ることで無駄なシーンを作ることもなくなり、せっかく時間をかけて書いたシーンを全て消すという悲しみを味わうこともなくなるのです。
箱書きに関してはこちらに詳しく書いているので、興味のある方は覗いてみてください。
シーンを構成する方法
観客を飽きさせないためにストーリーの構成が必要なように、ひとつのシーンにも観客を飽きさせない構成が必要です。
この章ではシーンを構成するために必要なことを2つ紹介します。
- 誰の主観かはっきりさせる
- 入り口とゴールを決める
誰の主観かはっきりさせる
まずはそのシーンは誰の主観であるかをはっきりさせます。1章でストーリーで観客の関心を得るには主人公の葛藤に感情移入させることが大事だと言いましたが、主観の定まっていないシーンは観客がどの人物に共感すればいいか分からなくしてしまうのです。
ひとつの事件を例に説明しましょう。
真夜中に女性宅に不審者が侵入する事件があった。 彼女はクローゼットに隠れて警察に通報。まもなくパトカーが到着し不審者を逮捕。 不審者は彼女の元恋人でストーカーだった。
この事件を撮影するときに、家にカメラをいくつか設置し、定点カメラのように撮影するとしたらどうでしょう?
おそらく観客は女性を気の毒に思う程度で、感情移入することはありません。
そこでまず女性を主観にしてシーンを作ってみます。
例1 ○ 女性の家・寝室(夜) ベッドで寝ている女性。 部屋の外から大きな物音。 女性「(目を覚まして)」 女性、耳を澄ます。 廊下から足音が近づいてくる。 女性「!……」 女性、ベッドから飛び出す。 携帯電話をつかみ、クローゼットの中に隠れる。 廊下の方でドアを開け閉めする音。 女性「(恐怖で)」 携帯電話で110番する。 そのときドアが開き、侵入者、入ってくる。 オペレーターの声「こちら110番、事件ですか、事故ですか?」 女性「(小声で必死に)家に誰かいる、助けて……!」 侵入者、クローゼットに気づき、近づいてくる。 女性「!……(覚悟を決めて)」 女性、クローゼットから飛び出し、侵入者に突進する。 仰向けに倒れ、ベッドの足に頭を打ち、意識を失う侵入者。 女性、侵入者の顔を確認すると……元恋人であった。 女性「……!」 オペレーターの声「もしもし、どうされましたか!?」
次に侵入者の男を主観にしてみましょう。
例2 ○ 女性の家・外(夜) 塀をよじ登ってきた男、辺りを警戒しながら侵入してくる。 ○ 同・中 真っ暗な室内。 窓をこじ開け入ってくる男、その拍子に花瓶を倒し、大きな音が響く。 男「!……(まずい)」 部屋から部屋へ移りながら寝室を探す男。 ○ 同・女性の寝室 男、入ってくる。 辺りを見渡すが、女性の姿はない。 クローゼットから、かすかに女性の声。 男「!」 男、クローゼットに近づく。 と、クローゼットから飛び出してくる女性。 男、押し倒され、ベッドの足に頭を打ち、意識を失う。 ○ 警察署・留置所 仰向けで目を閉じている男。 男「(目を覚まして)……」 警察官の声「目が覚めたか?」
どうでしたか? 主観を定めることによって例1は女性に、例2は男に感情移入しやすくなったと思います。
また、主観をどちらに選ぶかで作品の印象は大きく変わります。主観はどちらかひとつに絞っても、女性と元恋人など複数を使い分けても構いません。より効果的な方を選んでください。いずれにせよ、今自分は誰を主観にシーンを作っているのかとはっきり意識することを心がけてください。
入り口とゴールを決める
これは特に人物が登場するシーンに当てはまります。シーンに入り口とゴール(目的)があれば、自ずと中身も決まってきます。先ほどの例1でいうと、女性の家に男が侵入するのが入り口で、男が逮捕されるのがゴールになります。
ゴールのないシーンというのは、それを演じる役者もどう演じればいいかわかりませんし、監督もどう撮影すればいいかわかりません。役者や監督のためにもシーンにはゴールを持たせるようにしましょう。観客だけではなく作り手のことも考えられるのがプロの脚本家です。
そのシーンで新しい情報は何か?
シーンのゴールは新しい情報になることも多いです。先ほどの例1でいうと、侵入者の男が元恋人であることが新しい情報になります。ネタばらし的な情報だけでなく登場人物の態度や決断など、そのシーンで観客に伝えたいことは何かということを核にしてシーンを構成しましょう。
シーンを脚色する方法
シーンの入り口と出口が決まったら、次は中身をどう演出するかです。ここからは少し難易度が上がり、中級者向けの内容になります。
- サスペンスを作り出す
- 身体の動きや行動を加える
- 人物の内面をカメラワークで表現する
サスペンスを作りだす
サスペンスとは「観客の心を宙吊りにする」という意味で、ズボンを固定するサスペンダーが語源だとする説もあります。要するに観客に興味を抱かせる要素のことだと理解してください。
例えば、二人の男女がテーブルに向かって座り、仲良く話しています。このままでは普通のシーンです。しかしテーブルの下に時限爆弾があったら? しかも男女はそれに気づいていません。これがサスペンスです。観客はその時限爆弾がいつ爆発するのか、男女はどうなるのかハラハラして続きが気になるでしょう。
例1のサスペンスは女性がクローゼットに隠れるところでしょうか。徐々に侵入者が近づいてくる中で女性が無事に助かるのかどうか、ハラハラさせる演出になっています。
身体の動きや行動を加える
人物が会話をするシーンを書くときに、初心者は椅子に座ってとか、歩きながらとか、ただ会話をするだけのシーンになりがちです。それのどこがいけないのかと思うでしょうが、みなさんが書いているのは脚本であり、小説ではありません。語るものではなく、見せるものなのです。その意識が薄いと、会話だけのシーンは見栄えのしない映像になります。自分の文章が常に映像になったらどう見えるのかという意識を持つことが大切です。
例えば、口論に負けそうな人物がいたら冷静になろうと立ち上がり、窓際へ歩いていくのではないでしょうか? 公園で男女が口論していて、怒った女が去ろうとすれば、男は追いかけるのではないでしょうか?
このように動きや行動を付け加えることでシーンを目に見える形で表現し、観客により伝わりやすくなります。
人物の内面をカメラワークで表現する
カメラワークによって人物の内面の動きを表現する方法もあります。アップにしたり、ゆっくりズームで寄ったりする方法がそれに当たります。多用すると悪目立ちしたり、使い方を間違えると陳腐になってしまいますが、テレビや映画でもよく見る効果的な方法だと思います。
しかしこれを脚本家が使うには注意が必要です。
ト書きにいちいち「ここで女性の顔のアップ」などと書いてある台本を見たら、監督や演出はこう思います。
「お前が撮れや」と。
なのでわたしはカメラワークまでト書きで指定することに責任は取れません。
ではなぜわたしがこれを紹介したのか?
脚本家がカメラワークにまで口を出すことが野暮なのは百も承知です。
だけどありませんか? 頭の中で登場人物のアップが浮かんで来ることが。
「ここは女性の表情が必要な場面なんだ!」と思うシーンが。
そこで今回は特別に、どうすれば監督や演出に嫌われることなく、カメラワークを指定できるかお伝えします。
その方法はめちゃくちゃ簡単です。ト書きではなくセリフ表記を使うことなんです。
先ほどの例1でいうと、
女性「!……(覚悟を決めて)」
と表記することによって、女性のアップの画を上手く表現することができます。どうですか? 女性のアップが浮かんできますよね?
ちなみにこれはわたしが発明した技ではなく普通に使われる技ですので、みなさんもぜひ使ってみてください。
脚本家がカメラワークに口を出すのではなく、監督や演出家が映像をイメージしやすい脚本を目指しましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか?
今回の記事で興味を持っていただいた方はぜひ本書を手に取ってみてください。
このブログでは他にも脚本家を目指す人に向けた記事を書いています。
今後もみなさんに役立つ情報を発信していきますのでよろしくお願いします。
最後までご覧いただきありがとうございました!