みなさんこんにちは、ムービー3分クッキングの時間です。
今回は脚本家を目指すみなさんに、手塚治虫著『マンガの描き方―似顔絵から長編まで』を紹介&解説します。
手塚治虫は脚本家じゃなくて漫画家でしょ?
漫画家じゃなくて脚本家になりたいのに
マンガの描き方なんか興味ないよ
と思ったみなさん。漫画家と脚本家に共通すること、それは物語を作るということです。
- アイデアが湧いてこない
- 書きたいことがわからない
- 作品が最後まで完成しない
この『マンガの描き方―似顔絵から長編まで』は、前半が漫画的な絵の作り方、後半がアイデアの見つけ方や物語の作り方という内容になっています。そこで今回は本書の後半の物語の作り方に関する部分を、私なりにまとめてわかりやすくお伝えします。
漫画家になりたい方はもちろん、脚本家や小説家を志すみなさんもぜひ、数多くの名作を世に生み出した手塚治虫流の物語の作り方を学び、自分の作品に活かしましょう。
すべての物語は4コマでできている
まずはじめに、物語を作るうえで必ず意識して欲しいことがあります。特にこれから物語を考えようとしている方、自分の考えている物語が行き詰まっている方は、これを意識するだけで作品のレベルは格段にあがります。それはすべての物語は4コマ漫画にできるということです。
4コマ漫画とは、「起」「承」「転」「結」の4つのコマに分かれたマンガの形で、ストーリーのスジ立ての基本です。手塚先生も漫画を書き始めた当初は4コマ漫画について勉強し、たくさん描いていたそうです。その他にもストーリー作家として活躍されている多くの方もほとんどが4コマ漫画を経験しています。4コマを10個、100個と並べる。あるいは4コマを肉づけしていくことで長編になります。つまり、4コマ漫画が作れれば、どんな物語も作ることができるのです。
- 起…原因、事件の始まり
- 承…その事件を受けた話の発展
- 転…思わぬところへ事件がひっくり返る
- 結…事件の結論
この形式は最も無駄がなく、言いたいことがはっきりと表現される形です。みなさんが今書いている、もしくは書こうと考えている作品を4コマで表してみてください。
- ストーリーが複雑でわかりづらくなってなかったか?
- 4コマにして面白いと思えるか?
いま一度確認して、改善・修正していきましょう。
すべての発想法は2つに分けられる
4コマ漫画を作ることの重要さはわかった
でもアイデアが何も思いつかないよ
そんな方の悩みにも手塚先生は答えてくれています。
アイデアを考えるには、大きく分けて2つの方法があります。それは演繹法と帰納法です。
演繹法とは
演繹法とは、AがBでCになった、というように、話を頭から順に行き当たりばったりで考えていくやり方です。この方法は、意外性のある展開が生まれやすい反面、まとまりがなくなる可能性があります。
帰納法とは
帰納法とは、CになったのはBでAだったことが原因だった、というように、最後のオチを考え、それに合わせて話を考えていくやり方です。この方法は、安心して展開を追うことができる反面、オチに結びつけるため理屈っぽく、途中で読者にバレる可能性がある。
この2つの方法を頭に入れて、あたりを見回してみましょう。街を歩いたり電車に乗ったり、場所を変えましょう。アイデアは思わぬときにやってきます。お風呂やトイレに入っているときかもしれません。そんなときはスマホやノートにメモをとっておきましょう。すぐには物語にならなくても、書きためたものの中から新たなヒントが生まれることもあります。
物語の考え方
ここからは実践編です。
アイデアはたくさん書きためた
でもそれを物語にすることができないよ
そんな方の悩みにも手塚先生は答えてくれています。
はじめは借り物でもいいからつくってしまおう
自分にしか書けない面白いものを作ろうと思えば思うほど、書くことができなくなってしまいます。まずは気楽な気持ちで書いてみることが大切です。
例えば職場や学校で聞いた面白い話に自分が感じたことを盛り込む。電車や街中で見かけた面白い人を元に、その人の生活をイメージする。こうすることによって、借り物をあなたの物語にすることができます。
このやり方はパクリなのではと思う方もいるかもしれません。しかしこれは脚色といって、自分の考えがプラスされていれば、パクリにはなりません。
新しい主人公を作る簡単な方法
新しい主人公を作るうえでも借り物を自分なりにアレンジするやり方は有効です。
例えば『ドラえもん』ののび太と『鬼滅の刃』の炭治郎の性格を混ぜ合わせて、ひとりの人物を作ってしまう。そうすることで今までになかった主人公ができ、ストーリーも新しいものになっていきます。
ただしこの方法は、下手をすると裏表のある二重人格者になりかねないので注意が必要です。書きながらストーリーに合わせた性格に修正していきましょう。ひとりの人物にあまり多くの性格を入れると、逆に印象が弱くなってしまいます。ちなみに、のび太と炭治郎を合わせたら善逸っぽくなりそうですよね(笑)
このように、個性的な人物ができたらそれに合わせて物語を作っていく。性格がしっかりできていれば、その人物は勝手に活躍してくれるのです。
脚本を書く
テーマの作り方
テーマは作品の顔と言われるくらい大切です。物語を通して何を伝えたいのか。子ども向けの物語にも「悪いものは負け正義は勝つ」といったテーマがあるように、どんな物語にもテーマは必要です。また優れた物語になればなるほど、深いテーマを持っています。
1番印象に残った体験から物語が生まれる
凡人のわたしには誰かに伝えられるような立派なテーマなんかないよ
そんな方に手塚先生はこう問いかけます。「あなたがこれまでの人生で一番印象に残った出来事は何ですか?」と
手塚治虫の体験
手塚先生の学生時代は戦後の只中にありました。あるとき手塚先生が町を歩いていると、米兵に道を聞かれました。相手は6人、かなり酔っている様子で、スラングが混じっていることもあって何を言っているのかわからない。やっとの思いで「自分は英語を話せない」と言ったつもりが、その途端に米兵は手塚先生をいきなり殴ったのです。殴りつけられても、大声で笑いながら去って行く米兵たちを我慢して見ていなければならない屈辱はそれからずっと頭から消えずに残っていたそうです。
この体験は手塚先生の漫画が一貫して「人間関係の問題」を扱っていることの原点になっています。『鉄腕アトム』は人間とロボットの葛藤、『リボンの騎士』や『ブラック・ジャック』もすべて対人関係の軋轢を扱っています。
わたしたちの生きている時代は手塚先生の時代と違って平和で、戦争も他所で行われていることだと思うでしょう。確かにそうかもしれません。しかし人は必ずしも何かに心を動かされた経験があるはずです。例えそれが自分だけにしか理解されないものでも構わないのです。人を感動させるのは自分の1番描きたいものをぶつけたときです。他の人の話を脚色しただけでは良い物語は生まれないということも頭に入れておいてください。
脚本のつくり方
テーマが決まったら脚本を書いて行くのですが、その前に行うステップがあります。
- プロット(構想)を練る
- シノプシス(あらすじ)を考える
- キャラクターを考える
- 箱書きを作る
プロット(構想)を練る
決まったテーマに沿ってジャンルを決め、大まかなスジを考えます。勧善懲悪がテーマで、時代ものにするなら悪い領主を農民や民衆が力を合わせてやっつけるという物語ができるでしょうし、SFなら宇宙の大怪獣が現れ、それを地球のすべての科学力でやっつけるというような物語ができるでしょう。
シノプシス(あらすじ)を考える
大まかなスジができたら、簡単なあらすじにしてみましょう。何がどうしてどうなったかということだけを、思いつくままに書きましょう。
シノプシスのストックがたくさんあると便利です。すぐ作品にならなくてもいいので、気楽にどんどん書きましょう。
キャラクターを作る
まずは主人公と副主人公を作ります。登場人物は多すぎるとストーリーが散漫になります。5、6人を目安にして、それぞれの人物を掘り下げて行くようなイメージを持ちましょう。
箱書きを作る
あらすじを元にもう少し膨らませて、小説に似たような形にします。事件のヤマ場や息抜きの場面を意識して書き分けます。この作業がないと頭でっかちで尻つぼみな物語ができてしまいます。
脚本を書く
ここまできてようやく脚本に入ります。箱書をもっと膨らませて、セリフや人間の登場と退場、その場所の光景を丁寧に書きます。脚本を作るときは最低つぎの5W1Hという物語の基礎を意識しましょう。
- だれが……人物(who)
- いつ……時(when)
- どこで……場所(where)
- なにを……事件(what)
- なぜ……原因(why)
- どのように……方法(how)
構成 客を飽きさせない方法
どれだけ深いテーマや魅力的な登場人物が作れても、構成がしっかりしていなければお客さんは飽きてしまいます。みなさんの言いたいことをしっかりと伝えるためにも構成を学ぶことは大切です。
プロローグ
はじめはお客さんの気持ちをぐんぐん引き込むために印象的で派手な場面を持ってくるのが基本です。
登場人物の紹介
プロローグの後は登場人物の紹介です。話がどうしても地味になってしまうので、登場人物のキャラクターを生かしたコメディ要素を入れるなどしてお客さんを楽しませましょう。
第一のヤマ場
適当なところに来たら、第一のヤマ場を作ります。これがないと作品がおとなしく見えてしまい、お客さんは見るのをやめてしまいます。
息抜きを入れる
ヤマ場の後は息抜きです。第二のヤマ場へ向かう前のクールダウンをしましょう。
第二のヤマ場を作る
小さなヤマ場や息抜きを繰り返し、ストーリーの終わりに話全体のヤマ場を作ります。ここは一番盛り上がる場面です。たっぷりページをとって登場人物を暴れさせましょう。
最後に
いかがでしたか? 今回の記事を読んで詳しい内容が知りたいと思った方は、ぜひ本書を買って読んでみてください。
繰り返しますが、漫画も小説もドラマも映画もアニメも、物語を作るということに関しては共通しています。このブログでは他にもドラマや映画で活躍する脚本家のシナリオ術を紹介していますが、今回と共通するところは多く、しかしそれぞれこだわる部分が違うという印象です。興味のある方は覗いてみてください。
【脚本家になるための入門書】『シナリオを書きたい人の本』をわかりやすく解説
【初心者必見】『映画はやくざなり』笠原和夫のシナリオ術をわかりやすく解説
これからも脚本家になるための情報を発信していきますのでよろしくお願いします。
最後までご覧いただきありがとうございました!