「キャラクターにリアリティがないと言われる」
「魅力的なキャラクターを作る方法が知りたい」
「キャラクターの履歴書の書き方が知りたい」
今回はそんな方に向けて、キャラクターに深みを持たせるために必要な履歴書の作り方について解説します。
キャラクターに深みを持たせることは、作品自体に深みを持たせることと直結しています。
「もっといい作品を書きたい!」と思っている方にとっても参考になる内容になっていますので、最後までお付き合いください。
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履歴書の重要性
「履歴書って意味あるの?」と感じる方もいるかもしれません。
確かに主人公は別として、全ての登場人物の背景を作品内で説明することは不可能です。
いくら脇役の過去を考えたところで、ストーリーでは使われないことがほとんどだと思います。
しかし履歴書を作るということは、作者がその人物をよく理解するという点で必要なことなのです。
私たちが最初にイメージするキャラクター像は「主人公の敵役で、実は悲しい過去を持っていて……」と極めて表面的で曖昧なものでしかありません。
そしてそのままシナリオを書いていくと、ストーリーに都合のいい行動を取ったり、セリフが説明的になったりと、キャラクターにリアリティがなくなっていきます。
そこで「敵役にはどんな悲しい過去があるのか?」「なぜそれが起こってしまったのか?」と深く考えることによってキャラクターのイメージが鮮明になり、言動に説得力を持たせることができます。
さらに履歴書を作っていく過程で「この人物はこんな言動はしない」「こっちの展開の方がいいかもしれない」とキャラクターに引っ張られて新たなストーリーのアイデアが湧くこともあります。
履歴書の作り方
履歴書の作り方に決まりはなく、自分なりの方法を見つけていくのがベストです。
ですが一例として、ここでは『北の国から』など多くの脚本を手がけた倉本聡さんの履歴書づくりをもとに紹介しようと思います。
倉本さんはシナリオ以上に履歴書づくりを重視する脚本家の1人です。
履歴書を作ると言っても、就職面接で使うような学歴や職歴などの経歴を羅列するだけではダメです。
履歴書にはその人物の人格形成に影響を与えた出来事を書きます。
いきなり書くのは難しいと思うので、キャラクターを深掘りするための10の質問を用意しました。
- 氏名、年齢、生年月日、出身地は?
- 長所、短所は?
- 家庭環境は?
- 恋愛遍歴は?(初恋、恋愛の質や深さ、失恋の理由など)
- 趣味や関心事は?
- 交友関係は?(何でも打ち明けられる友人はいるか、それはどんな人かなど)
- 影響を及ぼした人物は?
- 過去のトラウマは?
- 心の拠り所、居場所は?
- 住んでいる町の地図、家や部屋の間取りは?
もちろん全てに答えなくてはいけないわけではありませんが、これらの質問にある程度答えられるようになればキャラクターのイメージをより掴んだことになると思います。
まずは自分の履歴書を書いてみよう
とはいえ、キャラクターをゼロから創造していくのは難しいと思います。
「キャラクターのイメージが湧かない」という方はまずはあなた自身の履歴書を作るところから始めてみましょう。
「何の意味があるの?」と思うかもしれませんが、キャラクターを理解する前に自分のことをきちんと理解することはとても大切です。
あなたの人格形成に影響を与えた出来事を確認していくことで、自分の創作の原点や本当に書きたいものが見えてくるかもしれません。
プロの脚本家の履歴書
ここではプロの脚本家が実際に書いた履歴書を紹介します。
自身の履歴書づくりの参考にしてください。
野沢尚さんのつくる履歴書
野沢尚さんは『眠れる森』『結婚前夜』で向田邦子賞を受賞しただけでなく、小説『破線のマリス』では江戸川乱歩賞を、さらには『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』を手掛けるなど、ミステリーを得意として幅広い分野で活躍していた脚本家です。
野沢さんも脚本執筆の前に主要登場人物たちの生年月日を定め、家族構成や出身地、子供の頃の思い出などの半生を綴った履歴書を書き下ろし、俳優に演技の参考としてそれを渡していたと言われています。
今回は野沢さんが自身の創作術について語った『野沢尚のミステリードラマは眠らない』に掲載されていた履歴書から冒頭を抜粋して紹介します。
森田実那子、27年の人生 『眠れぬ森』より
1971年6月26日、イギリス映画『小さな恋のメロディ』が日本で封切られた日、福島県御倉市で生まれる。
本名は森田実那子。父親の森田明仁は御倉市の市会議員。代々、広い山林を所有し、土地の名士であった。旅館経営者の娘であった母親加寿子も、森林保護のボランティアでは婦人たちをまとめたり、夫婦揃って人望を集めていた。五つ年上の姉の貴美子も少女バイオリニストとして知られ、森田家は土地の人々にとっては理想の一家だった。
実那子は姉ほどの才能はなく、勉強より運動が好きな少女だったが、姉が白いドレスを着て壇上でバイオリンを引いて人々の拍手を浴びる姿に嫉妬したりせず、すくすくと育った。
家族そろった夕飯の席では笑いが絶えず、一家は一点の曇りもない幸福に包まれていた。
が、そこは「劇場」だった。
実那子が10歳の時、それが起こった。家が改築され、姉とひと部屋ずつ子供部屋をもてた頃だった。夜中に実那子の部屋に忍びこむ者がいた。実那子は目が覚めてもそれが誰だか確かめるのが怖く、背中を向けたまま息を殺し、その者が
延ばしてくる手の感触に耐え続けた。声をあげて拒否しようとすると、拳骨が襲いかかってきた。実那子の体をまさぐり、いたぶる物はやがて部屋から去っていった。朝になると、昨夜のあれは悪夢だったのだ、と実那子は自分に言い聞かせた。
体のあちこちに殴られた痕の青痣を見ても。
その人物が父親だと分かったあとも。
『野沢尚のミステリードラマは眠らない』
坂元裕二さんのつくる履歴書
坂元裕二さんは1987年に19歳でデビューしてから現在まで『東京ラブストーリー』『最高の離婚』『カルテット』『花束みたいな恋をした』など多くの名作を世に出している脚本家です。
そんな自身の脚本人生について語った『脚本家 坂元裕二』の中に掲載されていた履歴書から一部抜粋して紹介します。
坂本さんは脚本執筆前に企画書やストーリーは書かず、登場人物の過去について考えた以下のような文章を用意して脚本を書き始めるそうです。
連続ドラマ企画 『MOTHER』
◼︎ 浅生葉月 あさおはずき(三十五歳)
浅生家の長女である。幼い頃から勉強が大好きな優等生だった。中学、高校と、友人が恋に夢中になっている間も、彼女はひたすら勉強を続け、北海道の農業大学に進学した。
東京の家を出た。母も妹たちも特に反対はしなかった。女っ気の無い勉強ロボットだと思われていたのだろう。自分でもその通りだと思う。生涯研究者として生きるつもりだった。
大学院に入り、自発的な恋もしないまま、時折誘われるままに男と付き合い、ひたすら牛や馬や羊の研究を続けるうちに30歳半ばとなっていた。助教授になれそうだという頃、突然大学が縮小され、彼女の研究室は無くなった。
東京に戻ろうとは思わなかった。ここ最近は、実家に帰るのは二、三年に一度だ。正月に帰って、特に家族と何を話すわけでもなく過ごし、また北海道に戻る。結局彼女は、紹介された近隣の小学校で理科の教師になった。漁港の傍にある小学校だ。
二年目。彼女は担任を任された。一年一組。ここで彼女は、向井凛と出会う。
凛は何故か彼女になついてきた。無愛想な彼女を慕う生徒は他にはいなかった。凛だけが常に声をかけてきては、彼女のひとりで取り組んでいる研究をじっと見つめていた。はじめは疎ましく感じていた彼女も少しずつ凛を受け入れはじめた。学校の帰り道に喫茶店に立ち寄り、クリームソーダを飲ませてあげると、凛は心から嬉しそうにしていた。彼女もクリームソーダが大好きだった。それは昔、母と買い物に出かけたデパートで飲んだ味だった。
彼女と凛は友達のような関係になった。とは言っても、もっぱら喋るのは凛だった。ひたすらノートに向かう彼女の前で、凛は構想じみた話を続ける。それは穏やかな、心地よい時間だった。凛は少し変わった子だった。とても頭が良い、しかし大人の言うことに素直には従うことがなかった、それを子供らしく無いと嫌う大人がこの町には大勢いることも知った。しかし彼女は、そんな凛が、わかるような気がした。彼女ははじめて感じる。これが人と一緒にいることの幸福感なのだろうか。彼女に見送られ、家に帰るときの凛は、いつも少し淋しげだった。彼女のまたこのまま凛と過ごしたいと感じるようになっていた。
ある時彼女は気付いた。凛のお腹に小さな痣があることを。
『脚本家 坂元裕二』
まとめ
この記事では履歴書づくりの重要性、書き方、コツ、プロの履歴書を紹介してきました。
シナリオは書き始める前にどれだけ準備をしたかで作品の出来が大きく変わってきます。
その他の準備である構成やストーリーの作り方について知りたいという方はこちらの記事をご覧ください↓
履歴書づくりはあくまでいいシナリオを書くためにあります。
履歴書を書いて満足してしまったり、いつまでも履歴書が書けずにシナリオに取り掛かれなくては意味がありません。
「履歴書を書く気が乗らない」「思うように書けない」という方はここで立ち止まらずに、シナリオを書いてしまってもいいと思います。
書いてみて履歴書の大切さに改めて気がついたら、またこの記事に戻ってきてください。
みなさんがいいシナリオを書けることを心から応援しています。
当サイトでは他にもシナリオを学ぶ方に役立つ記事を書いています。
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